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第175回芥川賞を受賞した、小砂川チトさんの『ゾンビ回収婦』。
「気になるけど、どんな話か分からない」という方に向けて、元図書館司書が結末に触れずに感想をお伝えします。
『ゾンビ回収婦』の基本情報
- 著者:小砂川チト/出版社:講談社
- 第175回芥川賞受賞(2026年7月発表)
- AIに職を奪われた主人公の内面を舞台にした作品
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は、AIによって多くの職が奪われた世界。
主人公は夫とともに職を失いますが、二人の受け止め方は対照的でした。
夫は「働かなくてよくなった」と前向きに捉え、今までできなかった旅に出かけていきます。
一方で主人公は、夫が残していった仮想世界のゲームの中、そのホテルでたった一人の掃除婦として働き始めます。
彼女の仕事は、ゾンビの骸を拾い集め、世界を美しく保つこと。
同じ状況からまったく違う道を選んだ夫婦——その対比の中で、物語は静かに動き出します。
元図書館司書が読んで感じたこと
分量・読みやすさ
芥川賞は「短編・中編小説」を対象とする賞です。
そのため、1作品あたりの文字数はそれほど多くありません。
『ゾンビ回収婦』も、読書が習慣になっていない方でも無理なく読める分量でした。
「芥川賞」と聞くと、なんとなく難しそう、時間がかかりそう、というイメージを持つ方もいるかもしれません。
でも実際は、すきま時間で十分読み切れるボリュームです。
ただし、漢字の変換に癖があります。
多くの小説であれば漢字変換される箇所が平仮名のままのことがあり、慣れるまでは読むスピードが上がりませんでした。
「少し未来」の話が、他人事に思えない
AIに職を奪われるという設定は、私たちが生きている現代より少し先の未来の話だと感じました。
ただ——今のAIの発展ぶりを見ていると、どうも他人事とは思えない。
「そう遠くない未来かもしれない」という感覚が、読んでいる間ずっとついてきました。
【芥川賞つながり】『ハンチバック』と読み比べて
実は以前、同じ芥川賞受賞作である『ハンチバック』も読みました。
『ハンチバック』では、主人公の身体にまつわる痛みや、自身の欲を満たすために試行錯誤する姿が描かれていました。
一方『ゾンビ回収婦』で描かれるのは、
現在の不安からの逃避、AIに職を奪われたという劣等感、
そして——そんな自分をどう満たしていくか。
痛みの正体はまったく違うのに、どちらも「自分の欠落と、どう向き合うか」を描いた物語だったのだと思います。
読んでいて印象に残ったこと
『なあ。俺がきみに与えた最初の言葉。なんだと思う?
人間らしく(イヌクティトゥット)』
―小砂川チト『ゾンビ回収婦』(講談社)
主人公がのめり込むゲームの中の、キャラクターのセリフです。
AIが台頭する時代に求められているのは、皮肉にも「人間らしくあること」なのかもしれません。
人間と同じ作業はできるかもしれません。
でもやっぱりAIは人間になることはできないのだなと改めて感じました。
読み終えて、率直に思ったこと
正直に言うと、序盤は戸惑いました。
これはSFなのか、メルヘンなのか、それとも主人公の妄想なのか。
霧を掴むような感覚で、しばらく物語の輪郭がつかめず、「うーん」と思いながら読み進めていました。
でも後半に入ると、主人公が置かれた状況が少しずつ見えてきて、ようやく物語が像を結んでいく。
最後まで読んでみて、この構造にも意味があったのだと納得できました。
こんな人におすすめ / おすすめしない
<おすすめな人>
- AIと社会の関係に関心がある人
- 仮想現実的なゲームが好きな人
- 『ハンチバック』のような社会派の純文学が好きな人
<合わないかも>
- ひらがなが多い文章に違和感を覚える人
- 文章のリズムや読みやすさを重視する人
この本を読むなら
紙・電子で読む
気になった方は、ぜひこの機会に手に取ってみてください。
紙の本であれば物語だけでなく、装丁なども楽しむことができます。
また電子版なら書店に行かなくても1クリックで読み始めることができます。
同じく話題の新刊、村上春樹さんの『夏帆』についての感想は『murakami-kaho-review』の記事で紹介しています。
まとめ
- AIに職を奪われた世界で、働くことを選んだ女性の物語
- 芥川賞作品は短編・中編。すきま時間でも読み切れる分量
- ひらがなの多い独特の文体には、少し慣れが必要
- 序盤は戸惑うかもしれないが、後半で像を結んでいく
「AIが当たり前になった時代に、人間らしさとは何か」——
そんな問いを静かに投げかけてくる一冊でした。
先が気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。

