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- 2026年の本屋大賞に輝いた、朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』。
- 50万部を超える話題作を、元図書館司書が読んだ感想をお伝えします。
- ※前半はネタバレなし、後半にネタバレありの感想を分けています。
『イン・ザ・メガチャーチ』の基本情報
- 著者:朝井リョウ/出版社:日経BP(日本経済新聞出版)
- 2026年 第23回本屋大賞受賞、50万部突破
- 「ファンダム経済(推し活)」をテーマにした群像劇
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は、推し活に沸く現代の日本。
アイドルグループの運営に関わることになった男性、
アイドルを心の支えにする女子大生、そして推していた俳優を失ったファン――。
「仕掛ける側」「のめり込む側」「かつてのめり込んでいた側」。
立場の異なる3人の視点から、人の心を動かす熱狂の光と影が描かれていきます。
元図書館司書が読んで感じたこと(ネタバレなし)
分量はちょうどよく、読みやすい
本の分量は、多すぎず少なすぎず。
物語に程よく浸りながら、最後まで一気に読み進められました。
同年代の女性会社員の視点が、刺さった
3つの視点で語られる物語の中で、私に一番刺さったのは、ほぼ同年代の女性会社員の視点でした。
立場が近いぶん、彼女の感じることがまるで自分のことのように迫ってきました。
「転がされていた」自分に気づかされた
実は私自身、かつてアイドルのファンをしていた時期があります。
だからこの作品で仕掛ける側――マーケティングする側の視点を知ったとき、はっとしました。
「ああ、あのとき私は、こうやってうまく転がされていたんだな」と。
夢中だった頃には見えなかった構造が、物語を通して見えてくる。
これは、かつてのめり込んだ経験がある人ほど、ぐさりと刺さるはずです。
「好きなもの」との距離を、考えさせられた
読み終えて強く感じたのは、距離感の大切さでした。
信じられるもの、夢中になれるものがあると、人は自信や勇気をもらえます。
それ自体は、とても素敵なことです。
でも、のめり込みすぎると――周りが見えなくなり、
本来の自分さえ見失ってしまう。
その怖さも、この作品は静かに描いています。
好きなものと、どう付き合うか。
その適切な距離感をあらためて考えさせられました。
【ネタバレあり】3つの物語が描くもの
※ここから先は、各登場人物の結末に触れます。
未読の方は、ぜひ読んでからお戻りください。
①「誰かと繋がっていたい」男性会社員
妻と離婚し、家族と離れて暮らすことになった男性。
自分の存在意義が薄れていく中で、元同僚からアイドルグループのデビューに関わる仕事を持ちかけられ、人生に再び輝きが戻ります。
「今までやってこなかったことが、今になって返ってきている」
――だからこそ、彼は今までなら選ばなかった方を選んでいく。
アイドルの子とコスメショップへ行ったり、別居中の娘との月一のテレビ電話に、わざわざリングライトを使ってみたり。
少しずつ繋がりを取り戻していく姿は微笑ましい。
けれど自分勝手な行動から、彼は仕事を外されてしまいます。
そして――繋がっていると思っていたのは、自分だけだった。
本当の繋がりを考える男性の描写が少し悲しかったです。
②「推し」を失ったファンが、答えを探す
推していた俳優が、突然亡くなってしまう。
その現実を受け止めきれないファンは、「何かの陰謀で殺されたのではないか」と考え始めます。
その思いは膨らみ、やがて国家ぐるみの陰謀論にまで発展していく。
何かを失ったとき、人はどう気持ちの整理をつけるのか。
どう生きていくのか。
はたから見れば、明らかに危うい方向へ進んでいる。
でも――もし自分が同じ立場だったら?
かつてアイドルのファンをしていた私には、これを「ありえない」と切り捨てることがなかなか難しかったです。
③ 居場所を求める、女子大生
大学生活になかなか馴染めない女子大生。
深く考えすぎる性格で、周りとフランクに接せられず、恋人にも振られてしまう。
そんな彼女が心の拠り所にしたのが、オーディション番組からデビューした男子アイドルグループでした。
やがて彼女は、父親に「留学資金」と偽って、アイドルにお金を注ぎ込んでいきます。
印象的だったのは、彼女が「視野を狭めること」で生きやすさを感じていく点です。
「視野は広く持つべき」とされる世の中で、彼女はむしろ逆へ。
でも、その楽しい時間は長くは続かない。
留学の嘘が親にバレるまで、そう時間は残されていない――
その予感が、切なくてたまりませんでした。
3人に共通しているのは、「何かと繋がることで、自分を保とうとしている」こと。
推し活はその繋がりを与えてくれる。
だからこそ、救いにも、危うさにもなる。
先ほど書いた適切な距離感の大切さが、この3つの物語から浮かび上がってきます。
こんな人におすすめ / おすすめしない
おすすめな人
- 「推し活」や、現代のSNS・熱狂に関心がある人
- 群像劇や、社会派の物語が好きな人
- 集団心理や、人が動く仕組みに興味がある人
今の時代、人は何に心を動かされるのかを、物語として体感できる一冊です。
合わないかも、な人
- 今まさに推し活に夢中で、その世界に浸っていたい人
- すっきりしたハッピーエンドを求める人
正直に言うと、この作品は推し活の光と影の両方を描きます。
なので、今その熱狂のただ中にいる人が読むと、少し複雑な気持ちになるかもしれません。
ただ――だからこそ、という面もあります。
夢中な時期を経て「あれは何だったんだろう」と振り返りたくなったとき、この本はきっとあなたに新しい視点をくれます。
この本を読むなら
紙・電子で読む
気長に待てる方は図書館で予約してみることがおすすめです。
または発売中なので、書店やKindleですぐに読めます。
「聴く読書」でも
朝井リョウ作品はAudibleにも多数。忙しくても聴いて楽しめます。

まとめ
『イン・ザ・メガチャーチ』は、推し活を軸に、3人それぞれの物語が展開する群像劇です。
- 登場人物たちは、みな何かしらの「繋がり」を求めている
- 信じるものは、人に力をくれる。でも、のめり込みすぎると自分を見失う危うさもある
- 大切なのは、好きなものとの適切な距離感
読み終えて思ったのは、私たちが本当に求めているのは、SNSでの希薄な繋がりではなく、人と人との確かな繋がりなのかもしれない、ということ。
「推し活」という現代的なテーマを入り口に、「人は何と繋がって生きるのか」という、普遍的な問いへ連れて行ってくれる一冊でした。

