『アイネクライネナハトムジーク』小説のあらすじと感想|伊坂幸太郎の連作短編集

書評

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伊坂幸太郎さんの小説と聞いて、どんな印象を持つでしょうか。

殺し屋。疾走感。ハラハラする展開。

——私はずっとそういう作家だと思っていました。

『アイネクライネナハトムジーク』は、その印象とはまるで違う一冊でした。

人は亡くならない。派手な事件も起きない。
運転免許センターや美容室、教室でただ人と人が出会っていく。

それだけの話なのに、最後まで読むとばらばらだった6つの物語がつながります。

今回はKindle Unlimitedで読みました。
ネタバレはありませんので、これから読む方も安心して読み進めてください。

『アイネクライネナハトムジーク』はどんな小説?

『アイネクライネナハトムジーク』は、伊坂幸太郎さんの連作短編集です。

2014年に幻冬舎から単行本が出て、2017年に幻冬舎文庫に入りました。
2015年の本屋大賞では9位に選ばれています。

収録されているのは6編。

アイネクライネ/ライトヘビー/ドクメンタ
ルックスライク/メイクアップ/ナハトムジーク

連作短編集というのは、独立した短編でありながら、登場人物や出来事がゆるやかに重なっていく形式のことです。

ある一編で脇にいた人が、別の一編では主人公になっている——そんな仕掛けがあります。

この形式は、以前ご紹介した青山美智子さんの『木曜日にはココアを』と同じです。

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タイトルの意味

アイネ(ある)クライネ(小さな)ナハト(夜の)ムジーク(曲)。

モーツァルトの有名な楽曲から採られた言葉で、「ある小さな夜の曲」という意味になります。

ちなみにこの小説は、シンガーソングライターの斉藤和義さんから「歌詞を書いてほしい」と依頼されたことがきっかけで生まれました。

とはいえ、読んでいて斉藤和義さんの世界がゴリゴリに前に出てくることはありません。

音楽に詳しくなくても、まったく問題なく読めます。

図書館でもよく動いていた作家

私は以前、公共図書館で司書として働いていました。

人気作家の新刊には、毎回10件以上の予約が入ります。
棚に並ぶ前から、次に読む人が決まっているような状態です。

伊坂幸太郎さんも、そうやって常に動いている棚の作家でした。

それだけ読まれている作家なのに、私自身は『グラスホッパー』『マリアビートル』で止まっていました。

シリーズになっているくらいだから——

そう思って、「伊坂幸太郎=殺し屋の話」という印象が固まってしまったのだと思います。

その印象を、この一冊が静かにほどいてくれました。

収録6編のあらすじ【ネタバレなし】

1.アイネクライネ

会社の指示で仙台駅前のペデストリアンデッキに立ち、街頭アンケートを取ることになった佐藤。

その日、街はボクシングの世界戦で沸いていました。

慣れない仕事に困り果てていた彼の前に、ひとりの女性が足を止めます。

2.ライトヘビー

美容師の美奈子と、その常連客である香澄。
香澄の弟は、ボクシングに打ち込んでいます。

髪を切りながら交わされる他人事のような会話が、やがて誰かの人生の大事な場面につながっていきます。

3.ドクメンタ

運転免許の更新で運転免許センターを訪れた藤間。

5年前、同じ場所で言葉を交わした相手のことを彼は覚えていました。
次に会えるとしたら、また5年後です。

期待を膨らませた彼の前に現れたのは、、、

4.ルックスライク

高校生の久留米和人と織田美緒。
ファミレスで働く笹塚朱美と、その店の客である邦彦。

この2組の話が、現在と過去を行き来しながら交互に進みます。

それぞれ別の場所で起きている出来事のはずなのに、読み進めるうちに、輪郭が少しずつ重なってきます。

5.メイクアップ

化粧品会社で働く窪田結衣は、仕事先で小久保亜季と再会します。

亜季は高校時代に結衣をいじめていた相手でした。

しかも今回は、結衣がプレゼンを受ける側で、亜季がプレゼンをする側。
立場は逆転していて、しかも亜季のほうは目の前にいるのが同級生だと気づいていません。

当時の亜季が好きだった野球部の男子の話も顔を出しながら、大人になった二人の時間が動き出します。

6.ナハトムジーク

これまでの5編に出てきた人たちが、ひとつの場所に集まってきます。
誰がどこでつながっていたのか——ここで景色が変わります。

最後の一編にこれを置いた意味が、読み終えると分かります。

6編の中で一番印象に残ったのは「ドクメンタ」

免許の更新は、5年に一度。

ドクメンタというのは、ドイツで5年に一度ひらかれる美術展の名前です。
作中でも、この一編の冒頭で触れられています。

5年に一度めぐってくるもの

——それが、この一編のタイトルになっています。

言われてみれば当たり前のことなのですが、免許更新というありふれた手続きを物語の仕掛けにしたのが「ドクメンタ」です。

藤間が運転免許センターで言葉を交わした女性には名前がありません。
本文でも「女性」「彼女」としか書かれない相手です。

連絡先を交換するわけでもない。約束をするわけでもない。

ただ、5年後にまた同じ場所に来れば、会えるかもしれない——それだけ。

この二人が、よく似ているのです。
どちらも面倒くさがりで、どちらも結婚相手に愛想を尽かされかけている。
少なくともこのとき、二人は似た場所に立っていました。

だからでしょうか。

「もしかしたら、また会えるかもしれない」という藤間の期待が情けないのにどこかロマンチックに見えてきます。

5年という歳月は、決して短くありません。
その間に人生は動くし、相手が来る保証もない。

それでも彼は免許センターへ向かうのです。

私だったら、次の5年後も、きっと期待してしまうと思います。

正直なところ:時系列は少し分かりにくい

ここは正直に書いておきますが、この本では時系列が前後します。

さきほど紹介した「ルックスライク」がいい例で、2組の話が現在と過去を行き来しながら交互に進みます。

頭がはっきりしているときなら、この構成そのものが楽しい。
伏線を拾いながら読める、伊坂幸太郎さんらしい仕掛けです。

ただし、疲れているときは別でした。

疲れた夜に読んでいると、何度か「あれ、これはいつの話だっけ?」と戻ることがありました。

ページをさかのぼって、時間を確かめて、また進む。

軽やかに読めるタイプの短編集を想像していると、そこは少し違うかもしれません。

とはいえ、普通の状態で読むぶんには、まったく問題ありません。

分からなくなったら、少し戻ればいいだけのことですし、そもそも戻って確かめたくなる本というのは、それだけ細かく作り込まれているということでもあります。

疲れている日は無理をせず、頭が働いている時間に開く。
それだけで、この構成は楽しみのほうに回ります。

どんな人におすすめ?

<おすすめできる方>

  • ハラハラする展開が苦手な方
  • 伊坂幸太郎さんを「殺し屋の話の人」だと思っていた方
  • 伏線やつながりを探しながら読むのが好きな方
  • すきま時間に1編ずつ読み進めたい方

<合わないかもしれない方>

  • 一気に強い刺激を味わいたい方
  • 今、かなり疲れている方
  • 甘い恋愛小説を期待している方

疲れているときに読むなら、同じ連作短編集の『木曜日にはココアを』のほうが軽やかに読めます。

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読み終えるまでにかかった時間

読み終えるまでに2週間かかりました。

しかしこれは本のせいではありません。

ちょうど仕事が立て込んでいた時期で、夜に開いては数ページで寝落ちする日が続いたからです。

それでも読み切れたのは、この本の区切りやすさのおかげだと思います。

1編ずつ独立しているのはもちろん、1編の中でも現在と過去の話が交互に切り替わる場面がいくつもあります。

その切れ目で閉じれば、次に開いたときにも入りやすい。
忙しい時期でも、少しずつなら手が届く一冊です。

短い時間で読み進められる小説をほかにも探している方は、こちらも参考にしてみてください。

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Kindle Unlimitedで読みました

この本は、Kindle Unlimitedのおすすめに出てきたのがきっかけで読みました。

伊坂幸太郎さんは、図書館では予約が並ぶことの多い作家です。

それが読み放題の中にあって、気になったその日に開ける。
待たずに読めるというのは、それだけで少しうれしいものです。

※読み放題の対象は入れ替わることがあります。いま対象かどうかは確認してみてください。

まとめ

・伊坂幸太郎さんによる、全6編の連作短編集。
・人が亡くならない。ハラハラが苦手な方でも読める。
・一番良かったのは、5年に一度の再会を描いた「ドクメンタ」。
・時系列が前後するので、疲れているときは少し戻る手間がある。
・読了までの期間は2週間

殺し屋のいない伊坂幸太郎を、一度読んでみてください。