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伊坂幸太郎、江國香織、宮部みゆき、町田そのこ、米澤穂信、梨木香歩、恩田陸——。
この7人が、一冊の文庫に集まっています。
しかも全編、書き下ろし。
『プレゼント』は「新潮文庫の100冊」50周年を記念して生まれたアンソロジーです。
発売後まもなく20万部を突破しました。
読み終えてまず思ったのは、タイトルどおり「プレゼントをもらったような気持ち」でした。
収録された7編を、結末に触れずにご紹介します。
『プレゼント』はどんな本?
- 出版社:新潮社(新潮文庫)
- 著者:伊坂幸太郎/江國香織/宮部みゆき/町田そのこ/米澤穂信/梨木香歩/恩田陸
- 「新潮文庫の100冊」50周年記念作品
- 全編書き下ろしのアンソロジー
注目すべきは、収録作がすべてこの本のための書き下ろしだということ。
既刊から集めた寄せ集めではなく、7人の作家がこの一冊のために新しく書いた短編が並んでいます。
だからこそ、それぞれの作家の今の作風を一度に味わえます。
そもそも「新潮文庫の100冊」とは?
夏になると、書店の店頭にあの見慣れたフェアの棚が並びます。
「新潮文庫の100冊」は、新潮社が毎年夏に開催している名作フェア。
文豪の古典から現代の話題作まで、100冊が選ばれて紹介されます。
学生時代は、このフェアの棚から読書感想文の本を選んだりもしました。
今でもあの棚を見ると、夏を感じます。
その50周年を記念して生まれたのが、この『プレゼント』です。
収録7編を紹介【ネタバレなし】
① 伊坂幸太郎「ウッドペッカー荘事件」
最先端のAI技術を導入したホテルを舞台に、探偵とその友人がある事件に向き合う——という一編です。
途中まで私は、完全に読み違えていました。
「そういうことか」と分かった瞬間、足元をすくわれたような感覚。
まさに伊坂幸太郎さんらしい仕掛けで、思わず唸ってしまいました。
短編でここまでやるのか、と。
7編の一番手として、れ以上ない掴みだと思います。
伊坂幸太郎さんの作品については、『「読みたいけど時間がない」人へ|元司書が選ぶスラスラ読める5冊』の記事でも紹介しています。
② 江國香織「二つの宇宙」
大学生の悠斗(ハルト)と茉莉加(マリカ)。
茉莉加は、極度の人見知りだという悠斗の祖母に会いたいと言い出します。
「絶対に会わない」と言っていた祖母は——。
正直に言うと、読み終えても「何を伝えたかったのだろう」と考え込んでしまった一編でした。
祖母に認めてもらうことで、悠斗は自信を持ちたかったのだろうか。
はっきりとした答えは、まだ自分の中にありません。
でも、そういう分からなさを抱えたまま置いていかれる感覚も、読書の味わいのひとつなのかもしれません。
③ 宮部みゆき「真実のトランク」
夫と死別した教子(のりこ)は、弟が経営するバーでマスターを務めることになります。
物語は、彼女が昔アルバイトをしていたバーでの出来事へと遡ります。
そこにいた迷惑な客と、その客を追う謎の財団の男・カミジョウ。
財団は超常現象を扱っているといい——。
数十年の時を経て、教子はカミジョウと再会します。
そこで彼女が目にしたものとは。
宮部みゆきさんらしい、日常のすぐ隣に不思議が潜んでいる物語でした。
④ 町田そのこ「きっとあの日の光と同じ」
幼馴染の稲橋と康生。康生に彼女が出来てから二人の間には溝が。
そんな中、夏休みに偶然出会った流奈と稲橋は一時の青春を謳歌する。
高校生の友情と、ひと夏の恋。
そして大人になってから、もう一度——。
二組の男女を軸に、あの頃の光と時間が経ってから見える景色が描かれます。
青春のまぶしさと、少しの切なさが同居する一編でした。
⑤ 米澤穂信「無明(むみょう)」
新宿駅の自由通路で、母親が息子に手をかける。
その事件をめぐって、目撃した人、搬送先の医者、警察官、区役所の職員、編集者——
さまざまな人の視点から、この親子のことが語られていきます。
ネグレクトだったのか。それとも、生きるための自作自演だったのか。
真相に近づきたくてページを捲る手を止められませんでした。
米澤穂信さんらしい、読み手を試すような一編です。
⑥ 梨木香歩「見越しのマツ」
離婚を機に実家へ戻ってきた真美子。
向かいの有賀家の主人が亡くなったことをきっかけに、真美子の母は近所の宮間完治の母と交流を持つようになります。
やがて立派な敷地の有賀家が更地になることが決まる。
その敷地にあるマツの木には、昔から不思議なエネルギーがある——
真美子はそう感じていました。それは真美子だけではなく——。
そのマツをきっかけに、人と人が動き出す。
静かで、けれど確かに何かが変わっていく物語でした。
⑦ 恩田陸「伝説の季節」
関根春(シュン)は、学校で秘密裏に行われている儀式「サヨコ」に任命されます。
「サヨコ」は一年間、鍵を預からなければならない。
さらに3年に1度の「サヨコ」には、特別なミッションがある。
そして——「サヨコ」になったことは、誰にもバレてはいけない。
バレたら、その一年は最悪なものになる。
「サヨコ」とは何なのか。
学校という閉じた空間で受け継がれる、伝説めいた儀式。
そしてその裏に隠された真実とは。
恩田陸さんの描く学園の秘密の匂いが、たまらない一編です。
個人的に一番良かったのは
7編を読み終えて、いちばん心に残ったのは伊坂幸太郎さんの「ウッドペッカー荘事件」でした。
正直に言うと、少し贔屓目に見ているかもしれません。
もともと伊坂作品が好きで、これまでにも何冊か読んできました。
それでも——この一編が「7編の一番手」であることには、大きな意味があると思います。
冒頭でいきなり足元をすくわれる感覚を味わわされて、「この本、面白いぞ」と一気に引き込まれました。
そしてその勢いのまま、次の作品、その次の作品へとページをめくっていける。
トップバッターとして、これ以上ない一編でした。
短編特有の物足りなさ
良い本でしたが、手放しで絶賛できるかと言えば難しいかもしれません。
短編集である以上、どうしても一編あたりの分量は限られます。
その分「もう少しここを深く読みたかった」と感じる場面がいくつかありました。
登場人物の背景がもっと分かれば。
あの場面の意味が、もう少し描かれていれば。
——そんなあと一歩の感覚が、正直なところ残りました。
これは作品の欠点というより、短編という形式そのものの特性なのだと思います。
長編には長編の、短編には短編の味わいがある。
そう分かっていても、面白いと思った物語ほど「もっと読みたい」と欲が出てしまうのは、読者の性でしょうか。
この一冊は「7人への入口」になる
物足りなさを感じたと書きましたが、それでもこの本をおすすめしたい理由があります。
一冊読み終えたとき、私の中には7人分の引っかかりが残っていました。
「この作家さんの長編も読んでみたい」
「この人の書く文章、好きかもしれない」
短いからこそ、気軽に試せる。
そして気に入った作家がいれば、そこから世界が広がっていく。
アンソロジーの本当の価値は、そこにあるのだと思います。
司書の仕事も「出会い」をつくることでした
図書館で選書をしていた頃、私が考えていたのは「この本を必要としている人がいるかどうか」でした。
一冊の本が、誰かと出会う。
そこから、その人の読書がどこまでも広がっていく。
そういう入口をつくるのが、司書の仕事のひとつでもあります。
『プレゼント』は、まさにその入口を7つ同時に用意してくれている本です。
好きな作家がまだ見つかっていない方にも、次に何を読もう」と迷っている方にも——
この一冊は、いい出会いの場所になると思います。
選書という仕事については、『図書館司書の裏話|”選書”ってどんな仕事?元司書が解説』の記事にまとめています。
忙しい人にこそおすすめできる1冊
読んでいて実感したのが、この本の「読みやすさ」です。
正確に計ったわけではありませんが、1編あたり30分から1時間ほどで読み終えられる分量でした。
これは、まとまった読書時間が取れない方にとって大きな利点だと思います。
通勤の行き帰りで一編。
寝る前に一編。
週末のカフェで一編——。
長編だと「続きを読むために、前の内容を思い出す」ところから始まりますが、短編ならその負担がありません。
一編ごとに完結するので、細切れの時間でも物語をまるごと味わえます。
「本を読みたいけれど、時間がない」
そんな方にこそ、短編集はおすすめです。

『プレゼント』というタイトルについて
読み終えてから、このタイトルのことを考えました。
収録された7編それぞれに「プレゼント」が出てくるわけではありません。
作品の内容から付けられた名前ではないのだと思います。
では、何が「プレゼント」なのか。
私が感じたのは——この本そのものが、読者へのプレゼントなのだということでした。
伊坂幸太郎、江國香織、宮部みゆき、町田そのこ、米澤穂信、梨木香歩、恩田陸。
これだけの作家が、一冊のために新しい物語を書き下ろす。
それが文庫という手に取りやすい形で並んでいる。
本が好きな人間にとって、これほど嬉しいことはありません。
読み終えたとき、本当にプレゼントをもらったような気持ちになりました。
「新潮文庫の100冊」50周年という節目に、読者に贈られた一冊。
そう考えると、このタイトルがすとんと腑に落ちました。
まとめ
- 「新潮文庫の100冊」50周年記念の、全編書き下ろしアンソロジー
- 伊坂幸太郎、江國香織、宮部みゆきなど7人の作家が集結
- 1編30分〜1時間ほど。忙しい人でも読み進めやすい
- 短編ゆえの物足りなさはあるが、7人への入口になる一冊
好きな作家がまだ見つかっていない方。
次に何を読もうか迷っている方。
そして——本が好きなすべての方に。
この一冊は、きっといい出会いを運んできてくれます。
私にとっては、タイトルどおりの「プレゼント」でした。

